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/N比が小さい-やや富栄養化した立地においては、本来の構成種よりもカナムグラなどの路傍・空き地雑草が多くなっていることが明らかになった。近年特に著しい河川の富栄養化や、農地での化学肥料の大量散布などが、周辺の群落の組成や構造に影響を及ぼしていることが示唆される。ハンノキが前生稚樹(オープンサイトの出現を林床において待機している稚樹)を持たず、撹乱によって生じたオープンサイトで一斉に更新していることが明らかになったことから、洪水のような時として群落を破壊する動的な環境変化も、長期的に見た場合には水分条件や栄養条件と同様に群落の維持に重要な役割を果たしていると推測された。このように、河川の氾濫原のような水辺に成立する植物群落が維持されるには、ハビタットの水分条件が湿性に保たれること、過度に富栄養化しないこと、および適当な周期で撹乱が起きることが必要であることが明らかになった。これらの条件は、現在では自然のままに放置して得られるものではなくなっており、人為的なコントロールを必要とする。前節のイギリスでの例で示したように、維持すべき群落に応じた水位の調節や、富栄養化の抑制と撮乱とを兼ねた野焼きや刈り取りなどを積極的に行うことによって、多様なハビタットの保護・復元を図っていくことが必要であろう。
さて、ここでもう一度、冒頭に示した「荒川中・下流域に現存するヨシ群落とハンノキ林の分布図」を見ていただきたい。どちらの群落も非常に小面積で島状に孤立した分布となっていることがよくわかる。
ハンノキ林の研究でみてきたように、水辺を生育地とする植物にはオープンな場所を好んで侵入する種が多い。また、それらの種は、洪水によって生じたオープンサイトを移動しながら個体群を維持している。しかし、現在のように群落間の距離が大きく離れ、その間に農地・公園・ゴルフ場などの人為的な土地利用された土地が広がっている場合には、撹乱によってオープンサイトが形成されても種子が供給され難く、したがってオープンサイトヘの移動も困難となる。そのため遷移の進行や乾燥化によって残存している生育地が失われた場合には、その個体群は消失し、さらなる分断化が進むことになる。こうした悪循環を断ち切るには、現存する群落とそのハビタットの保護だけではなく、群落/ハビタット間のネットワーク化を図っていくことが不可欠であるといえる。

 

 

 

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